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−第20回(昭和63年度)− |
開ききった薔薇を見るのは ピッと水の中で割れた硝子の器を 手探りで拾うような 生温い不安 薔薇との呼応の中では 生きることの惰性は 影を潜めてしまう それは 私の「時」をも停止させる 一つの焔だ しんなりと柔らかく 崩れるように からみ合っている花弁は 寡黙な女の髪の毛のように 芯の方から冷えてくる 開ききった薔薇は 夥しい情欲と感傷を重ねながら 褪せていく時間までも 誇らしげに見せつけて ただ 音もなく 暮れていくのか 空ではない 無ではない 曇った鏡が しだいに 結像していくような 恐ろしいまでの 手応えがある |
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