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−第32回(平成12年度)− |
昔 ぼくたちが魚だったとき 海はどこにでもあった やがて ぼくたちが陸に上ったとき 海は記憶の中に閉じ込められた だけど体の中の海は ときとして荒れ狂い ぼくたちを困らせた かつてぼくたちが子どもだったころ 真夏の海を泳ぎ続けた 夜がきて 朝がきて また夜がきても いつまでもどこまでも ぼくらは泳ぐのをやめなかった 水平線の果てるところまで泳ぎ着いても そこにはぼくらの求めるものはなかった そのとき 熱い流れがぼくたちのほほを襲った いったいこの小さな体の中に どんなにたくさんの海を隠していたのか 記憶の中の海は 涙の淵に沈められていたのか あの日凍りついた時間も いっしょに溶けて流れ始める そして心の中に芽生えはじめた 花や樹を育てるため ぼくたちはちょっぴり大人になっていく |