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−第44回(平成24年度)− |
猛暑の夏が巡ってくるたびに 思い出す人がいる 病魔との壮絶な戦いの果てに 区切られた生を 深いところで受け入れ 渾身の力を振り絞って 人間としての生命の灯を燃やしきり 静かに旅立っていったMさん Mさんがいかに一生懸命に生きていたか 残された時間が どんなにかけがえのないものであったか 自分を取り巻く人たちに どれだけ心を残しながら この世を去ろうとしていたか…… Mさんの記した日記の 一行一行がそれを物語る 夫から妻へ 父から四人の子供たちへ 教師から教え子たちへ 一人の人間から友人・知人たちへ Mさんの深くあつい想いが 行間ににじみ出ている 旅立つ直前には世話になった人たちに 最後の挨拶状をしたためたMさんの遺志は 今も皆の心の中に生き続けている Mさんが逝って 十三年目のこの夏 Mさんの長男に 新しい命が生まれるという 父のいる十キロ先のホスピスへと 毎日ひたすら自転車をこいだ 当時十五歳の少年が もうすぐ父親になるという Mさんの命は確かに受け継がれる 彼の命日にある八月に |
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